私が初めて靖国神社奉納演武(2007)に出席の機会を得て神社能楽堂の舞台で古流の形を演じた時、それを見たある空手家が“あんなのは空手ではない!”と
酷評していたとの話を聞きました。
私はその時、“古流の手(唐手)を知る人がほとんどいないのだから無理もない……”と別段気に留めることはありませんでした。 しかし、奉納演武を主催する天眞正自源流最高師範(現在は綜師範)上野景範先生がその空手家に向かって“先生、あれが本当の空手ですよ……”と話していたことを後に知り、
「理解してくれる人がいるんだな……、それも空手の外から…」と、うれしさ半面複雑な心境だったことを覚えています。
沖縄松林流空手・新里勝彦先生のソフトタッチ技法(Soft Touch Techniques)を理論的に解説する本が発表したことを紹介しましたが、新里先生は、「今の沖縄空手のほとんどが剛体の空手。
これからは柔体の空手の研究を進めていかなければならない。“柔よく剛を制す”、柔らかい力で剛の力を制す空手です。」と述べられています。
私は率直に“空手界にもようやく待ちに待った理解者が現れてくれた”と新里先生に感謝を述べ、古流の本質は「柔の手(ティー)」いわゆる「柔法」と独り唱えていた私にとっては
大きな自信となった次第です。
ソフトタッチ
新里先生が提唱するソフトタッチ技法とは、手(掌底・手刀)で相手の身体にタッチ(接触)する際、ほとんど圧をかけず
(圧力を消す)に触り、 正中線を保持したまま腰を沈めて(インナードロップ)技を掛ける技法で、脱力技法とも解説されています。
その技法は一見すると合気道の柔らかな技掛けと同じような印象を持たれてしまうようですが、その裏には剛体技法の高い習熟度があることを理解しておかなければなりません。
なぜならば「剛と柔」は表裏一体で、柔らかく見えても瞬時に剛く鋭い技に変化するからで、それが新里先生の空手であり古流の特性でもあるのです。
尚、私の柔体(脱力体)技法は、技法の中に自源流真剣刀法と相撲の技の知識が加えられているので、ソフトタッチ技法との間に若干の解釈の違いがあります。
そのため私は「柔法(じゅうほう)」と呼称しています。
柔法の養成
まとわり手とねばり手
相手の身体にまとわりつく、ねちっこく相手に食らいつく、粘り腰からの投げ……。 これらは相撲の稽古や取り組の中で耳にする言葉です。 私は柔法の稽古を進めていく上の用語として“まとわり手”あるいは“ねばり手”を使いますが、語源は上述した言葉からきています。
柔法のまとわり手・ねばり手の感覚を掴むために最初に用意されているのが基本四形の「しめの形」です。
しめの形
技法については既に「動画・柔の技法」で解説している通りですが、一つ加えることは呼吸の吞吐の中で起こる舌の動きです。それは舌が上顎部と下顎部の間を触れては離れ、
離れては触れるという動きで、これは私なりの造語を使って言えば「小周天のスイッチング」となります。
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